生成AIとSAP連携の新たな可能性を探る MCPサーバーを使った活用実証実験レポート

近年、ビジネスにおける生成AIの活用が急速に進んでいます。しかし、多くの企業で中核をなす基幹システム「SAP」の豊富なデータを、いかにして生成AIと安全かつ柔軟に連携させるかは、重要な課題となっています。
この度、弊社は新たなアプローチとして「MCPサーバー」を介した生成AIとSAPの連携に関する実証実験を行い、その有効性と将来性について大きな手応えを得ましたので、ご報告いたします。
実験の概要:生成AIからSAPへ、新たなアクセス経路を確立
今回の実験では、ユーザーが日常的な言葉で指示を出すと、生成AIがそれを解釈し、MCPサーバーを経由してSAPシステムに安全にアクセスし必要なデータを正確に把握、調査、取得し、文脈に沿って回答を行うという一連のフローを検証しました。
Model Context Protocolサーバがキーポイント
今回の実験で最も重要なのがModel Context Protocolサーバー(以下MCPサーバーと略)となります。※1
パソコンのUSB-Cポートが一番イメージとして近いです。USB-Cがあれば様々な機器を簡単に接続できるように、MCPはAIを色々なデータやツールに繋ぐための統一された窓口の役割を果たします。
これにより、企業はAIを通じて実社会の情報を与えたり、複雑な作業を自動で任せたりする高度なアプリケーションを実行させることができます。
MCPの規格はすでに多数の生成AIツールに採用されているため、利用するAIツールも状況に応じて最適なものを自由に選択・変更できる点が大きな利点です。
※1 MCPサーバーの詳しい説明については下記のURLを参照ください
https://modelcontextprotocol.io/docs/getting-started/intro
情報取得フロー
具体的なアクセス経路は以下の通りです。
- ユーザー: 「今年一年の受注売上についてグラフ化してください」といった自然な言葉で生成AIに質問します。
- 生成AI: 質問の意図を解釈し、必要なデータが何かを判断します。加えて、生成AIは利用するMCPサーバを選択し、質問内容をプロトコルに変換しリクエストします(図1)
- MCPサーバー: 生成AIからのリクエストを受け取り、SAPが理解できるOData形式の命令に変換し、SAPシステムに中継します。
- 生成AI: 受け取ったデータを整形し、ユーザーに分かりやすい文章や表の形で回答を提示します。生成AIは現状メジャーに発表されている生成AI※2は利用可能です。(図2)
※2 ChatGPT、Gemini、Claude、Copilotなど
図1 プロンプトの画面
この仕組みにより、SAPの専門知識がないユーザーでも、対話形式で簡単にSAPのデータを引き出すことが可能になります。例えば経営層など直接的にシステム操作を行わずして対話にて経営に必要な数字を取得することができる事になります。昨今の生成AIでは音声による入力操作も可能になってきているため、誰もが場所や身体的な制約を問わず、対話を通じてSAPのデータへアクセスできる未来を描くことができます。
図2 結果画面
実験で見えた、SAPデータ利活用の新しい未来
今回の実験を通じて、単にSAPのデータへアクセスが容易になるだけでなく、企業全体のデータ活用を大きく変革する可能性が見えてきました。
可能性1:SAP以外の多様なデータとの連携
MCPサーバーはSAP専用ではなく、様々なシステムと生成AIを1対1で繋ぐ『専用の橋渡し役』として、アプリケーションごとに利用することになります。そのため、CRM(顧客管理システム)、SFA(営業支援システム)、クラウド上のデータベースなど、社内に散在する個々のデータソースに合わせたアクセスが可能となるのです。
これにより、例えば「特定の顧客(CRMのデータ)に対する、直近の売上実績(SAPのデータ)と、進行中の商談状況(SFAのデータ)をまとめて要約して」といった、複数のシステムを横断した高度なデータ活用が、生成AIとの対話だけで実現できるようになります。
可能性2:SAP利活用の飛躍的な進化
これまで一部の専門担当者しか触れることのできなかったSAPのデータが、経営層から現場の従業員まで、あらゆる立場の社員にとって身近なものになります。これにより、データに基づいた迅速な意思決定や、これまで気づかなかった新たなビジネスインサイトの発見が促進され、企業全体の競争力向上に大きく貢献します。
可能性3:「Joule」だけではない、AI活用の柔軟な選択
SAP自身も「Joule」という優れた生成AIを提供していますが、企業の戦略や特定の業務ニーズによっては、他の生成AIモデルを選択したいケースも考えられます。
MCPサーバーを活用することで、業界特化型やその他のAIなど、その時々で最適なAIを自由に選択し、SAPと連携させることで、AI活用の主導権を自社で持ち続け、柔軟かつ戦略的なIT投資が実現できます。
まとめ
MCPサーバーを介した生成AIとSAPの連携は、単なる技術的な実験に留まらず、企業のデータ活用文化そのものを変革する大きなポテンシャルを秘めています。
私たちは、この新しい連携の形が、多くの企業にとってDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させる強力なエンジンになると確信しており、今後もさらなる検証を進め、実用化に向けたソリューション開発に取り組んでまいります。
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