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AIが出てきたからこそSAPコンサルの価値は増大する

AIが出てきたからこそSAPコンサルの価値は増大する
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代表の相馬です。近年はAIによって「コンサル不要論」なんて出てきております。SAP業界でも俄かにそうつぶやかれておりますので、今日はSAPコンサルの価値について論じたいと思います。

価値の置き場所が動いている

SAPコンサルタントの価値は、長く「標準機能を知っていること」に置かれてきた。それがいま、静かに動いている。

ERPが「記録するシステム」から「判断を支援し、やがて実行するシステム」に変わりつつあるからだ。仕訳を正しく落とす設計品質は、もちろん前提として残る。その上に「この判断はAIに任せられるか」「任せた責任は誰が持つか」という新しい設計領域が積み上がった。

ここに手が届くかどうかが、分水嶺になる。

SAPが賭けたのは、チャットボットではなかった

まずやるべきは、SAPのプロダクト戦略を絵として理解し、技術で追いつくこと。この二つはセットでなければ意味がない。絵だけ分かる会社は営業資料しか作れず、技術だけ追う会社は機能の解説者に留まる。

そしてSAPの戦略は軽く見るべきではない。象徴的なのが、2026年7月に完了したPrior Labsの買収だ。テキストや画像ではなく「表形式データ」の基盤モデルを作るドイツのスタートアップに、4年間で10億ユーロ超を投じる。

SAPが賭けたのはチャットボットではなく、財務・SCM・製造・人事の構造化データからの予測だった。入金遅延、供給リスク、需要予測、設備保全。ERPが40年ため込んだデータの上でしか成立しない領域である。

我々もこの順番に倣うべきだ。「AIで何かできませんか」ではなく、「このデータで何が予測でき、何が自動実行に耐えるか」から入る。

ソリューションの点を線でつなぐ

Signavio、LeanIX、Joule、Prior Labs。個別の製品として理解している限り、提案はバラバラになる。役割で並べると、こうなる。

  • Signavio...プロセスの現在地
  • LeanIX...アーキテクチャの地図
  • 表形式基盤モデル...構造化データからの予測
  • Joule Studio...エージェントを作る場所
  • Joule Agents...判断が業務に載る場所
  • AI Agent Hub...統制の台帳

重要なのは、SAP自身がこれを別売りの製品ではなく、“一つのライフサイクル”として組み始めていることだ。

2026年5月に発表されたJoule Studioがそれを体現している。自然言語で目的を書くと、Signavioとナレッジグラフから業務文脈を取り、LeanIXから非SAPを含むシステム構成を読み、要件定義書・技術仕様・コードの骨格・テスト・動作プレビューまでを一気に生成する。ソニーの事例では、3〜4日かかっていた作業が10〜15分になったという。

できたエージェントはAI Agent Hubで管理される。SAP製も自社製もサードパーティ製も、LLMもMCPサーバーも横断して統制できる。

つまり、「可視化 → 整合 → 実装 → 統制」が一本の線になった。この線を語れるパートナーと、「Signavioの見積もりを出せます」というパートナーの差は、もう会話の次元が違う。

Clean Coreも同じ線の上にある。アドオンを棚卸しするのは監査対応のためではない。標準の処理チェーンが素直に流れていない業務には、エージェントも予測モデルも載らないからだ。Clean Coreは、AIを載せるための地ならしである。

実はソリューションから入っていい

「ソリューションから入るな、本質は課題だ」。この批判は正しい。本質はソリューションではない。

それを認めた上で、あえて言いたい。“思考の入口としては、ソリューションから入った方が目線が合う”

「あるべき姿を議論しましょう」から始めた会議は、参加者それぞれの「あるべき姿」が違うまま2時間が過ぎる。ところが「Signavioで見ると、この受注プロセスは承認が3回走っています」と具体物を置いた瞬間、全員が同じ画面を向く。「その3回目は形式だけだ」と反論が出る。それでいい。反論は、共通の対象ができた証拠だ。

ソリューションは答えではなく、「議論の座標軸」として使う。順番の問題であり、思想の問題ではない。

チェンジマネジメントは、もう周辺業務ではない

エージェントが判断を代替し始めると、変わるのはシステムではなく組織だ。

エージェントが与信ブロックを解除できるなら、その責任は誰の職務記述書に書かれるのか。職務分掌はどう引き直すのか。どこまで自動化し、どこから人間の判断を残すのか。「判断できること」で価値を出してきた担当者に、どんな役割を渡すのか。

どれもカスタマイジングガイドには書いていない。そして、ここが詰まっていないAI活用は、必ず「作ったが使われないエージェント」で終わる。

しかも猶予は思うほどない。EU AI Act(EU AI規則、Regulation (EU) 2024/1689は、AIを包括的に規制する世界初の法律)が高リスクと定めるのは、雇用、信用評価、教育、必要不可欠なサービスへのアクセス——つまり人事、財務、購買であるSAPがエージェントを最初に置こうとしている場所——と、ほぼ完全に重なっている。偶然ではない。判断の価値が高い業務は、間違えたときの被害も大きいからだ。

義務の期限は2027年12月に延びた(透明性義務は2026年8月に発効する)。だが延期されたのは期限であって、責任ではない。GDPRや差別禁止法の下では、エージェントの誤った判断は今日から企業の責任だ。そして猶予期間の宿題は「自社で動いている全AIの棚卸しと分類」——過半数の企業が、まだそこに着手できていない。

ここで効いてくるのが、SAPコンサルタントの立ち位置である。

「このエージェントの判断は誰が承認するのか」という問いは、3つの層に同時に触れる。業務プロセスの問題であり、組織と権限の問題であり、法令対応の問題だ。この3つを別々の資料で語ることはできる。実際、組織論はコンサルファームが語り、法令は法務が語ってきた。

だが、それを「システムの中に実装できる」のは我々しかいない。承認権限はロールと権限オブジェクトとして存在し、職務分掌はルールとして存在し、判断の記録は伝票とログとして残る。規制当局や監査人が最終的に見るのは、パワーポイントではなくこの実装である。

つまりSAPコンサルタントは、組織設計の議論の結論を、証跡が残る形に落とし込める唯一の職種だ。ここを取りにいかない理由がない。

AIエージェントは、SAPの中で作れる

抽象論で終わらせないために、具体像を置く。製造業の「入金遅延予測と与信判断支援エージェント」。

  1. 予測する
    BDC(Business Data Cloud)上の債権・入金履歴に表形式基盤モデルを当て、得意先ごとの遅延確率を出す。学習も特徴量設計も不要

  2. 文脈を与える
    Signavioで「受注→与信チェック→出荷」の滞留箇所を特定し、LeanIXで関連システムと技術的負債を洗う

  3. 作る
    Joule Studioで、遅延確率の高い得意先の未出荷受注を抽出し、根拠付きで営業部長に提示、承認されたら与信ブロックを解除するエージェントを開発。外部の信用調査APIはMCPで繋ぐ

  4. 統制する
    AI Agent Hubに登録し、判断根拠とオーバーライド履歴を監査可能な形で残す

  5. 組織を変える
    与信規程と承認権限、営業の月次運用を同時に書き換える

同じ型は、生産オーダー実績確認(CO11N)の異常検知、納期回答遅延の予測、月次決算の未転記検知、設備の故障予測にもそのまま展開できる。

しかもこれはSAPの閉じた世界の話ではない。Joule Studioにはn8nが組み込まれ、LangChainなどのフレームワークにも対応し、生成物はVS CodeやCursorでそのまま深掘りできる。我々の開発の作法を捨てる必要はない。捨てるべきは「SAPはAIの箱にはならない」という思い込みだけだ。

そして、Joule Studioの設計時アクセスは2026年末まで無償で開放されている。試作し、デモを作り、ナレッジを溜める期間としては、これ以上の条件はない。

結論

この変化は、SAPコンサルという職業の縮小ではなく拡張だと思っている。

必要なのは3つの追随だ。

  1. 戦略への追随
  2. 技術への追随(資料ではなく手で触る)
  3. 役割への追随(組織変革まで引き受ける)

ERPは、企業の業務データが最も構造化されて集まっている場所である。AIの価値がデータの質と構造で決まるなら、ERPを最も深く理解している者が最前線に立つのは、むしろ自然なことだ。

そこに立つ準備を、いま始めるかどうか。それだけの話だと思っている。

 

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*注記*
表形式基盤モデルは、SAP-RPT-1.5がgenerative AI hubで提供中。無償プレイグラウンド(rpt.cloud.sap)で自社のCSVを使って試せる。Prior Labsの技術は今後AI Core/Business Data Cloud/Jouleに統合される予定。SAP AI Agent Hubは当初LeanIXの機能だったが2026年5月以降Business AI Platform側からも利用可能で、機能の大半は2026年Q3提供予定。SAP Domain ModelsもGAは2026年Q3予定。

*参考*
SAP News Center(Joule Studio発表/SAP Sapphire 2026/Prior Labs買収)、SAP Community(SAP AI Agent Hub、SAP-RPT-1.5)

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