SAPのCRPをどう使いこなすか |標準CRPの弱点を乗り越えた2社の実例
CRP(能力所要量計画)の導入支援を担当しております武田です。本コラムは、SAPのCRPをテーマにした前後編の後編です。前編では、CRPとは何か、その中核である負荷平準化、そして標準機能が抱える弱点までを整理しました(前編はこちら)。
本稿から読み始めても分かるよう要点を振り返りながら、標準CRPの弱点を実際にどう乗り越えるのか、私たちが支援した2社の実践と、運用に乗せるための設定のポイントをご紹介します。
1. 前編の振り返り|標準CRPには2つの弱点があった
まず、前編のおさらいです。標準CRPには2つの弱点がありました。1つは、CRPとMRPを何度も往復しなければならないこと。もう1つは、負荷平準化で工程の日程を動かしても、その結果が製品(最上位)側の手配に自動では返らず、部品が揃わない・滞留するといった新たな負担を生むことです。
では、この弱点を、実際の現場ではどう乗り越えるのか。ここからが後編の本題です。
2. 多くの現場に共通する出発点|計画がSAPの外にあり、分断されている
2社の話に入る前に、両社が導入前に抱えていた共通の出発点に触れておきます。それは、生産計画の立案が SAPの外にある外部ツール で行われていたことです。
こうした外部ツールでの計画立案は、担当者の経験と工夫で回っている一方、大きな弱点があります。計画がSAPと分断されているため、SAPには最新の計画が反映されず、他部署はSAPを見ても本当の生産状況が分からない。つまり、SAPが「正」になっていない のです。
この状態では、計画の変更があるたびに担当者が外部ツール上で手作業で直し、関係部署へ個別に共有する必要があります。これが立案の負担を重くし、情報の行き違いも生みます。2社が目指したのは、この分断を解消し、SAPを正とすることでした。計画がSAPにあれば、製造物の納期を正しく把握でき、サプライチェーン上の変化に対しても各部署が速やかに判断できるようになります。
3. 弱点をどう乗り越えるか|PP/DSか、自社に合わせた工夫か
前編の最後で触れたとおり、標準CRPの弱点への向き合い方には、大きく2つの道があります。
1つは、より高度な計画機能である PP/DS を導入する道です。動的ペギングによって上位・下位の手配関係と能力の制約を密接に結びつけられますが、追加のライセンスと、相応の導入・運用準備が必要になります。
もう1つが、標準機能をベースにしつつ、自社の生産形態に合わせた現実的な工夫で弱点を回避する道 です。今回ご紹介する2社は、いずれも後者を選びました。同じCRP活用でも、着目したポイントと打ち手は対照的です。順に見ていきましょう。
4. 事例A社|BOMを1つにまとめ、立案を効率化する
A社は、見込生産を中心とする会社です。多階層のBOMを持っていたため、前編の弱点①(MRPとCRPの往復)が重くのしかかっていました。階層が深いほど、CRPで日程を動かしたあとにMRPを回し直し、また平準化する、という反復が増えていくためです。
そこでA社が採ったのが、BOMを1階層にフラット化する という工夫でした。計画上たどるべき階層をなくすことで、CRPとMRPの往復による調整の複雑さを大きく抑えたのです。
ただし、これは「CRPを導入するならBOMを1階層にすればよい」という一般論ではありません。A社でBOMが多階層になっていたのは、その製品の特徴や構成をふまえた結果ではなく、他製品と同じマスタ設定をそのまま志向したためでした。実際、この製品では多階層にするメリットはなく、それを確認したうえでフラット化を決めています。
中間在庫の可視化についても、問題は生じませんでした。A社ではもともと、複数の工程を一つの製造指図でまとめて発行する運用(一括指図)を採っており、中間品を在庫として管理していなかったためです。フラット化ができるのであれば、それに越したことはありません。だからこそ本当に重要なのは、自社の製品がフラット化してよい状況にあるかどうかを見極める調査力だと言えます。A社の効果も、その見極めがあって初めて得られたものでした。
この工夫と、計画を外部ツールからSAPへ移したことが合わさり、A社では 生産計画の立案にかかる時間が大幅に短縮 されました。これが最大の効果です。
加えて、付随的な効果として、指図の印刷枚数が約5分の1に減りました。多階層のBOMでは、階層ごとに製造指図が立つため指図の枚数が多くなりがちですが、BOMを1つにまとめたことで指図そのものの数が減り、その結果として印刷枚数も大きく圧縮されたのです。計画の効率化だけでなく、現場の運用そのものが軽くなった好例と言えます。
5. 事例B社|ペギングアドオンで、結果を最上位に返す
一方のB社は、一品一様の受注生産が多い会社でした。ここで効いたのが、B社の生産の進め方の特性です。受注生産だからといって、構成品から必ず受注品をたどれるとは限りませんが、B社の場合は、加工品や部品の手配から、それがどの製品(最上位)のためのものかを一意にたどれる形になっていました。前編で説明した ペギング(所要と手配の紐付け) が、もともと追いやすい構造だったのです。
この特性を活かし、B社では、CRPの実行後に、中間工程が動いた日数を最上位の手配に返す、限定的なアドオン を開発しました。標準のCRP処理には一切手を加えず、その後処理として日数を反映するだけの、短期間で開発できる小規模なものです。これにより、前編の弱点②(平準化の結果が親に返らず、部品が揃わない・滞留する)を、PP/DSのフルライセンスに頼らずに解消したのです。
仕組みはシンプルです。中間工程の日程が動いたら、その影響を製品側の手配日にも反映させる。これだけで、加工品と製品の足並みが揃い、部品の滞留や欠品を防げます。もちろん、これは計画を緻密に最適化する手法ではありません。B社は、PP/DSのような本格的な仕組みに踏み込む前に、自社の状況に合った現実的な落としどころとしてこの方式を選びました。なお、この仕組みはB社のように最上位をたどれる構造だからこそ成立するもので、どの会社にもそのまま当てはまるわけではありません。
B社でも、計画を外部ツールからSAPへ移したことと合わせて、生産計画の立案にかかる時間が短縮されました。
6. 2社に共通する本質|SAPを「正」にすることの価値
着目点も打ち手も対照的な2社ですが、根っこには共通する成果があります。それは、これまでSAPの外にあった生産計画をSAPへ移し、SAPを「正」として動かせるようになった ことです。
計画がSAPにあることで、生産管理はもちろん、製造・購買・営業といった各部署が、同じSAPの画面を見るだけで最新の生産状況を把握できるようになります。「本当の計画はSAPの外にあり、担当者に聞かないと分からない」という状態から抜け出せるのです。
CRPの導入は、単に負荷を平準化する機能を足すことではありません。計画をSAPに一元化し、全社が同じ事実を見て動ける状態をつくること。2社の事例は、そこにこそ大きな価値があることを示しています。
7. CRPを運用に乗せる設定のポイント
ここからは、CRPを実際に動かすために必要な設定を、項目レベルで整理します。大きく「マスタ設定」と「カスタマイズ」の2つに分かれます。
まずマスタ設定です。CRPは作業区ごとの能力を見て負荷を評価するため、作業区マスタの整備が出発点になります。押さえるべきは次の2つです。
なお、作業区はディスクリート生産での呼び方で、プロセス生産(PP-PI)では「資源」が同じ役割を担います。本稿では作業区を前提に説明します。
- 作業区マスタの利用可能能力:稼働時間や稼働日数などから決まる、その作業区が実際に使える能力
- 作業区マスタの能力所要量の計算式:各作業がその作業区の能力をどれだけ消費するかを求める式
この2つが正しく整備されていて初めて、CRPの負荷評価は現実を映すものになります。ここが曖昧だと、いくら平準化しても意味のある結果になりません。
図1 作業区マスタの利用可能能力(作業区能力:ヘッダ)
能力所要量の計算式は、各作業(段取・機械・人などの作業時間)のどの値を使って負荷を積み上げるかを定義するものです。標準値キーで入力する時間項目を決め、計算式でそれらを能力所要量へ換算します。
図2 能力所要量の計算式(作業区マスタ/計算式照会)
次にカスタマイズです。SAPのCRP(能力平準化)は、いくつかのプロファイルの組み合わせで挙動が決まります。主に次の4つを設定します。
- 時間プロファイル:CRPでの日単位・週単位の表示切り替えや、計画期間の調整を行う
- 方針プロファイル:負荷平準化の計画や処理のルールを管理する
- 計画テーブルプロファイル:CRP画面に表示する列や順序など、画面のUIを設定する
- 全体プロファイル:上記3つを含む複数のプロファイルを束ね、どのデータを・どのように・どの期間・どの単位で表示・評価するかを制御する
図3 時間プロファイルの設定画面
図4 方針プロファイルの設定画面
図5 計画テーブルプロファイルの設定画面
図6 全体プロファイルの設定画面このうち、実際の運用で挙動を左右するのが 方針プロファイル です。前倒し・後ろ倒しといった平準化のルールをここで決めるため、自社の運用に合わせた調整が最も必要になる部分です。私たちが支援した現場でも、まずSAP標準の設定をベースにコピーし、検証を重ねながら自社仕様へ調整していきました。いきなり完璧な設定を目指すのではなく、動かしながら合わせ込んでいくのが現実的です。
8. まとめ
前後編にわたって、SAPのCRPを取り上げてきました。前編では、CRPとは何か、その中核である負荷平準化、そして標準機能の弱点までを整理しました。後編では、その弱点を現実的な工夫で乗り越えた2社の実践と、運用に乗せるための設定のポイントをご紹介しました。
2社に共通していたのは、計画をSAPに一元化し、SAPを正として全社が同じ状況を見て動けるようにしたこと。そのうえで、A社はBOMの見直しで、B社はペギングアドオンで、それぞれの生産形態に合った形で弱点を乗り越えました。CRPは、正しく設定し、自社に合った工夫と組み合わせてこそ力を発揮する機能です。
自社の生産計画をSAPで完結させたい、外部ツールでの立案から脱却したいとお考えの方は、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。弊社のコンサルタントが、貴社の生産形態に合わせた最適な進め方をご提案します。
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