ブログ

SAPのCRP(能力所要量計画)とは何か |MRPの計画を CRPで「作れる計画」に

SAPのCRP(能力所要量計画)とは何か |MRPの計画を CRPで「作れる計画」に
INDEX目次

CRP(能力所要量計画)の導入支援を担当しております武田です。本コラムでは、SAPのCRPについて、「そもそもCRPとは何か」という基礎から、実際の導入で直面するリアルまでを、前後編の2回にわたってお送りします。前編となる本稿では、CRPの基本的な仕組みと、標準機能が抱える弱点を整理します。

貴社の生産計画は、本当に作れる計画になっているでしょうか?

MRP(資材所要量計画)を回せば、「いつまでに」「何を」「どのくらい」手配すればよいかは、たしかに弾き出されます。しかし、その計画は「現場が本当に作りきれる量」なのでしょうか。立派に立てられた計画が、蓋を開けてみれば絵に描いた餅になっている。そんな光景を、私たちは製造業の現場で何度も目にしてきました。

本稿では、その処方箋のひとつである SAPのCRP(能力所要量計画) について、「そもそもCRPとは何か」から、その中核である 負荷平準化、導入前に押さえておくべき CRPの弱点、そしてその弱点がなぜ生じるのかを解き明かす ペギング まで、順に紐解いていきます。

1. なぜMRPだけでは計画が破綻するのか

まず出発点を確認しましょう。MRPは、受注や独立所要量(内示・見込)を元に所要量を展開し、必要な手配を計算してくれる優れた機能です。しかし、MRPには一つ大きな特徴があります。それは 原則として、作業区の能力に空きがあるかを確認せずに、必要な手配量と日程を計算する という点です。

たとえば「1日30台しか作れない工程」があったとしても、MRPはお構いなしに「その日に40台作れ」という計画を平気で立ててしまいます。作業区の能力制約を一切見ていないからです。結果として、紙の上では完璧でも、現場では到底こなせない。これが、多くの生産計画が破綻する根本原因なのです。

2. SAPのCRP(能力所要量計画)とは何か

そこで登場するのが CRP(Capacity Requirements Planning:能力所要量計画) です。CRPとは、MRPが立てた計画に対して、作業区(設備・人員)の利用可能能力を突き合わせ、「その計画を、限られた能力で本当にこなせるのか」を評価し、こなせるように調整する機能 です。SAPにおいてもCRPはMRPを補助する位置づけにあり、大きく次の2つから構成されます。

  • 負荷評価:各作業区に、いつ・どれだけの能力所要量(負荷)がかかっているかを可視化する
  • 負荷平準化:能力を超えた負荷を、余力のある日へ前倒し・後ろ倒しして平らにならす

MRPが「何を作るか」という理想を描く機能だとすれば、CRPは「それを本当に作れるのか」という現実を突きつける機能である、と言い換えてもよいでしょう。

3. 負荷平準化(山崩し)とは

CRPの心臓部が、この 負荷平準化 です。言葉は難しく聞こえますが、考え方は極めてシンプルです。

1日30台が上限の作業区で、ある日に40台の計画手配が積み上がっているとします。このままでは10台は必ず溢れます。一方、その前日は20台しか手配がなく、10台分の余力があります。そこで、溢れた10台を前日に繰り上げて差し立てる。こうして積み上がった負荷を余力のある日へ移し、全体を平らにならしていく。負荷を前倒し・後ろ倒しして「実際に製造できる並び」に差し立てる作業、それが負荷平準化なのです。

4. 能力を超えた負荷の組み替えは、結局は人手に頼ることになる

ここで、実際の製造現場に目を向けてみましょう。現場では、材料の到着遅れをはじめ、日々さまざまな変動が発生します。そのたびに手配はブレ、計画は揺さぶられます。

MRPは、能力を無視してあるべき手配を計算します。そのため、そもそも計画を立てた時点で、特定の作業区に能力を超える負荷が積み上がっていることは珍しくありません。さらに、材料の到着遅れなどの変動が起きれば、手配は一段とブレていきます。こうした過負荷や変動を、作業区の能力制約と突き合わせて現実的に作れる順序へと組み替える。その作業は、MRPの守備範囲の外にあります。結局は、生産管理の担当者が一つひとつ手作業で日程を組み替える ことになるのです。

これは想像以上に重い負担です。とりわけ 一品一様の受注生産が多い企業では、手配が本質的にブレやすく、この逐次対応が生産管理を疲弊させる大きな要因となります。CRPによる負荷平準化は、まさにこの「能力を超えた負荷の組み替え」を仕組みとして支える機能なのです。

5. 導入前に押さえておくべきCRPの弱点

もっとも、CRPは万能ではありません。導入を成功させるには、むしろその弱点を正しく理解しておくことが重要です。

弱点①:MRPとCRPを何度も往復することになる
CRPはMRPを補助する機能で、両者は一度では完結しません。CRPによる能力平準化は、あくまでその手配の中で工程の日程を動かす操作であり、多階層のBOMでは、上位・下位の手配日や部品の所要が自動で連動して計算し直されるわけではないからです。変更を部品所要や下位の手配へ反映するには、もう一度MRPを実行し、必要に応じて負荷平準化をやり直す必要があります。対象とするBOMの階層や、能力に制約のある工程が多いほど、計画の調整は複雑になりやすいのです。だからこそ、対象は全工程ではなく ボトルネック工程に絞る のが現実的です。

弱点②:負荷平準化の結果が、親(最上位)に返らない
これがより本質的な弱点です。SAP標準のCRPでは、中間の加工工程で日付を前後させても、その結果が製品(最上位)側の計画手配の日付に自動で反映されません。たとえば、負荷平準化によって加工工程が能力の空きを待つ形で後ろ倒しになり、加工品の完成が予定より遅れたとしても、製品の生産開始日はそのまま。すると、いざ製品を組み立てようとしても肝心の加工品が間に合わず、肝心の部品が揃わない。先に手配された他の組立品や購入部品だけが行き場なく滞留する、という新たな負担を生んでしまうのです。

6. ペギングとは何か

この弱点②を理解する鍵が 「ペギング(Pegging)」 です。ペギングとは、ひとことで言えば 「所要(需要)と手配(供給)の紐付け」、すなわちどの手配が、どの上位の所要を賄っているのか、という対応関係のことです。BOM(部品表)の階層構造の中で、「この加工品は、どの製品のための手配なのか」を結びつけて捉える、と考えると分かりやすいでしょう。

SAP標準のCRPでは、このペギングの結びつきが弱いのが実情です。ある工程や手配の日程を変えても、その変更がペギングの関係をたどって上位・下位の手配へリアルタイムに伝わるわけではありません。多階層の部品所要や日程のつじつまを合わせるには、やはりMRPの再計算などが必要になります。

一方、より高度な計画・詳細スケジューリングを担う PP/DS では、動的ペギングや詳細な日程計画によって、上位・下位の手配関係と能力の制約をより密接に結びつけた計画が立てられます。標準のCRPとMRPを別々に繰り返す場合に比べ、複数階層の日程のつじつまを保ちながら、より高度な計画を行いやすくなります。ただし、PP/DSの利用には追加のライセンスが必要になる ほか、初期設定や運用の確立にも相応の準備が必要になるのが実情です。

ここに、多くの企業が突き当たる分岐点があります。標準CRPの弱点を、PP/DSで解くのか。それとも、自社の生産形態に合わせた現実的な工夫で乗り越えるのか。

7. まとめ

本稿では、SAPのCRPとは何か、その中核である負荷平準化、そして標準機能の弱点とペギングという考え方までを整理しました。CRPは強力な機能である一方、標準のままでは弱点を抱えており、その乗り越え方は製品構造や生産形態といった企業ごとの事情によって変わります。では、その弱点を、実際にどう乗り越えるのか。

次のコラムでは、より実践的な内容に踏み込みます。弊社が支援し、標準CRPの弱点を現実的な工夫で乗り越えた2社の事例を取り上げ、それぞれがどこに着目し、どんな打ち手が有効だったのかをご紹介します。あわせて、CRPを運用に乗せるために必要なマスタ設定やカスタマイズについても、具体的に解説します。

CRPの導入をご検討中の方、また現在の生産計画に課題を感じておられる方は、ぜひ一度、お気軽にお問い合わせください。弊社のコンサルタントが、貴社の生産形態に合わせた最適な進め方をご提案します。

まずはお気軽に
お問い合わせください